大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)3405号 判決

被告人 小菅新一郎

〔抄 録〕

原審及び当審証人武山静雄、同山口重雄、原審証人後藤努の各証言、被告人の検察官に対する昭和二十七年十月三日附供述調書中の供述記載、株式会社横浜興信銀行人事部長狩野季彦の横浜市警察本部捜査第二課長宛「行員小菅新一郎勤務、経歴に関する件」と題する書面(記録一〇一丁以下)中の記載を総合考察するときは、横浜興信銀行は、一色支店に支店長を置いてはいたが、葉山支店常勤の支店長武山静雄の兼務とし、一色支店には、同人が常時不在のため、被告人を同支店の支店次長として常勤せしめ、同人において同支店の印章を保管し、貸付、手形割引等の同支店における支店長の銀行業務一切を代理担当していたことが明白であるが、同銀行は、終戦後の社会混乱に乗じ、本来本店に対する正規の禀議承認を経て為さるべき支店長名による約束手形の支払保証行為が不正規に行われる事態頻発するに到り、これを防止するため、昭和二十三年十一月十一日附業例第二九三号業務部長通達により、各支店に対し、爾今約束手形の支払保証行為は頭取かぎりの権限とし、支店長にはその権限なき旨を通告したこと、従つて、爾来支店長を代理する支店次長においては勿論その権限なきに至つたことはこれを否定し得べくもない。されば、支店長を代理する支店次長が、銀行を代理して約束手形の支払保証を為す行為は、その本来有する代理権限を踰越するものといわざるを得ない。しかしながら、元来銀行の支店長は、支配人でなくとも、当該支店の一切の業務を処理し、殊に、銀行業務に属する手形取引に関しては、銀行を代理する権限を有するものと一般に考えられており、第三者一般が、その支店長を代理する支店次長(席次上、支店長代理より上位に在るを一般とする)にもその権限ありと信ずることもまた当然といわなければならない。況してや、被告人は常時不在の支店長を代理し、寧ろ一般には、記録の上でも窺かえるように、一色支店の支店長とさえ考えられていたのであるから、第三者一般において、支店次長たる被告人に当然約束手形の支払保証の代理権限あるものと信ずるを通常としたものというべく、従つて、被告人が、支店次長として一旦約束手形の支払保証行為に出でた場合は、たとえ、その際、本件支払保証行為におけるが如く、自己の氏名印章のほか単に「株式会社横浜興信銀行一色支店」の肩書を附したるに止まり、特に支店次長ないしは支店長代理なる肩書を示すところがなかつたとするも、民法第百条、第百十条等の規定により、銀行において、その保証責任を負わざるを得ない場合のあるべきことに徴すれば、被告人が、支店次長として為した本件約束手形の支払保証行為は、少くとも、その本来有する職務権限に密接に関係を有する事項に属するものというを相当とすべく、従つて、これが手形支払保証行為を為した謝礼として金銭を収受した事実ある以上経済関係罰則の整備に関する法律第二条にいわゆるその職務に関し賄賂を収受したときとあるに該当するものと言わざるを得ない。

果して然らば、原審が、以上論述するが如き被告人の職務関係を考慮することなく、単に、被告人には本件約束手形の支払保証行為をする権限がなかつたとして、これが保証行為の謝礼として金銭を収受した本件所為につき被告人を無罪としたことは、とりもなおさず、事実誤認ないしは法令適用の誤を冒したものというべく、この誤が、原判決に影響を及ぼすこともまた自づから明らかであるから原判決は到底その破棄を免かれない。論旨は理由がある。

(三宅 河原 遠藤)

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